「殿の物語なのに宇多の帝から始まるの?」に対する答え

さて、こうして見てくると、『栄花物語』が誰をもちあげているか、おおよそわかってきたのではないでしょうか?

もちろん「倫子」こそが、道長を、雅信家を、そして朝廷を支えるヒーローだと書いているのです。

そのことが分かると『光る君に』で倫子が語っていた「殿の物語なのに宇多の帝から始まるの?」という疑問にも簡単に答えられるはず。

倫子は宇多天皇の孫である雅信の娘です。

そう、『栄花物語』には、道長だけではなく、宇多天皇に始まり、倫子に至る宇多源氏の栄華、というもう一つのテーマが隠されていたのです。

それこそが編集長・赤染衛門のたくらみだったのかもしれません。


女たちの平安後期―紫式部から源平までの200年』(著:榎村寛之/中公新書)

平安後期、天皇を超える絶対権力者として上皇が院制をしいた。また、院を支える中級貴族、源氏や平家などの軍事貴族、乳母たちも権力を持ちはじめ、権力の乱立が起こった。そして、院に権力を分けられた巨大な存在の女院が誕生する。彼女たちの莫大な財産は源平合戦の混乱のきっかけを作り、ついに武士の世へと時代が移って行く。紫式部が『源氏物語』の中で予言し、中宮彰子が行き着いた女院権力とは? 「女人入眼の日本国(政治の決定権は女にある)」とまで言わしめた、優雅でたくましい女性たちの謎が、いま明かされる。