数百円のために嘘八百を並べたて

ある日、私は浮かない顔をしている同僚のBさんに声をかけ、昼食にでかけた。
「通勤中にAさんに会ったら言われたのよ。『あなた、この店でコーヒーを買って会社に来ているのね。私のぶんも買ってきて』と。Aさんもその店の前を通るのにと思ったんだけど、『私は忙しいから買う暇ないの』と言われちゃって……」

Bさんはしかたなく2つ買っていったものの、いざコーヒーを渡しても、「小銭がないからあとで」と支払わないそう。これまで数杯分はもらい損ねていると聞いて頭にきた。私たちよりずっと給料が高いくせに、借りたお金にルーズだなんて。Bさんだけでなく、泣き寝入りしている人は何人もいた。

お金にセコイAさんだが、自分への投資は惜しまないようだった。私の髪に白いものが1本でも交じっていると、「白髪頭なんてみっともないわ。さっさと染めなさい」という言葉とともに、自分が月に何度も美容室に通っていることや、愛用の高級化粧品などの自慢話を始める。数百円の支払いは渋るのにそんな話ができる神経が、私には信じられなかった。

あるとき私が課長のお抱え運転手さんと雑談していると、通りかかったAさんに、「500円貸して」と頼まれた。財布はロッカーにある鞄の中で取りに行くのは面倒だから、と。私が知らんぷりを決め込んでいると、見かねた運転手さんが「僕が用立てておくよ、500円でいいの?」と財布を取り出した。

何度も頭を下げて、その場を離れた彼女の様子に違和感を覚えたが、何とものの15分も経たないうちに戻ってきたのだ! Aさんは運転手さんに返金して丁寧にお礼を述べ、そそくさと去っていった。

その姿を見て私は気づいた。彼女は私が運転手さんに、自分の日頃の行いについて告げ口していると思ったのだ。彼を通し課長の耳に入ったら大変と警戒し、今の一連のやりとりで几帳面さをアピールしたということだろうか。私はあ然とした。あからさまに人を立場で差別するとは……。