世間から「大丈夫?」と思われがちな生涯独身、フリーランス、40代の小林久乃さんが綴る“雑”で“脱力”系のゆるーいエッセイ。「人生、少しでもサボりたい」と常々考える小林さんの体験談の数々は、読んでいるうちに心も気持ちも軽くなるかもしれません。第46回は「毒母になにもできず自省」です。
スーパーで怒鳴る母
「もう、あんたなんて産まなきゃ良かった!!」
……はて? ここは世田谷区のスーパーのレジコーナー。会計を終えた客が購入品を袋に詰めるスペースで、ドラマのロケをやっているわけではない。声が聞こえたほうに視線を向けると、40代くらいの女性=母親がおそらく自分の子どもである、小学校高学年くらいの男子に向かって怒鳴っていた。
いかにも小学生らしいキャップ、トレーナー、ハーフパンツという格好の男子に比べて、母は一見すると派手な格好をしていた。いや、正直に書こう。スーパーには似つかわしくない、ケバい雰囲気だった。
「私さ、何度も何度も言ったよね?なんで言うこと聞けないのッ!? 同じことばっかり言っているから、私、頭がおかしくなりそうじゃない」
母親が小学生の息子に何を要求しているのか、具体的には分からない。そもそも、我が子かどうかも分からないけれど、子ども相手に高圧的な口調がすぎる。隣で聞きながら驚きとともに、モヤモヤが止まらない。私だけではなく周囲の客も彼らに視線を送っている。
すると、何も返事をしていなかった息子が、急に会計の終わった母親の買い物かごからお菓子を抜き出して、出口まで一目散に駆け出して行った。
「あ! こら待ちなさいよッ!!」
追いかける母親は途中、スーパーに置かれた鏡で前髪を整えていた。