心身の機能の衰えが家庭内事故を招く
「家庭内事故」という言葉をご存じでしょうか。文字通り、自宅という生活空間に身を置きながら不慮の事故に遭うことで、居室や階段で転んでケガや骨折をする、浴槽で溺れる、ガスコンロや石油ストーブの火でやけどするなど、さまざまな事例が報告されています。
近年はケガや骨折、やけどだけでは終わらず、死亡に至るケースも増加。令和5年の人口動態統計(厚生労働省調べ)によると、交通事故死者数が3573人だったのに対して、家庭内の事故で亡くなった人の数は1万6050人。実に約4.5倍の方が家庭内事故で命を落としています。家の中だから安心・安全とは言えないのです。
家庭内事故が発生する第一の原因は、加齢にともなって起こる心身の変化です。前述の家庭内で命を落とした人の9割近くが65歳以上の高齢者でした。
足腰の筋力や、体のバランスを保つ機能が衰えると、体がふらついて転びやすくなるうえ、視力が落ちて足元が見えづらくなることも転倒の原因に。暑さ寒さなど気温の変化に対するセンサーの鈍化や、血圧を一定に保つ機能の衰えは、夏場の熱中症や、浴槽での溺水事故に繋がります。
さらに、集中力や判断力が低下することにより、とっさの出来事に対する反応が遅れて、ケガややけどの重症化を招いてしまうのです。
単身や夫婦のみで暮らす家庭が増えていることや、コロナ禍以降人づきあいが減っていることも、家庭内事故の増加に拍車をかけているといえるでしょう。同居する家族間で日頃から会話があれば、心身の衰えや体調の変化に気づいて、お互いに見守ることができます。
単身世帯であっても、人づきあいを通じておしゃべりや食事を楽しむことは、心と体に活力を与えてくれるはず。身近な人たちと親交を深めておけば、いざという時の助けとなり、事故を防ぐことにも繋がります。