超・重労働の器械洗浄
手術が終わって器械を洗う。これは超・重労働である。洗い場の高さは、人によってちょうどいい高さが異なる。当たり前のことだが、みんなが使うのでしかたない。大は小を兼ねる、ではないが、低いは高いを兼ねる。洗い場が高いと背の低いナースは洗い物ができない。そのため、新病院のオペ室の洗い場は少し低めに作られていた。
その結果、ほとんどの看護師が中腰で器械を洗うことになった。開腹一式のすべての器械を洗うには30分以上かかる。これを中腰でやるのはしんどい。そこである看護師が、脚を大股に開いて体の高さを低くしてみた。するとこれがうまくいくことが分かった。それ以来、オペ室ナースは全員、脚を大股に開いて洗浄をするようになった。
なるべく洗いを楽にしたいので、千里は術中にハサミなどを生理食塩水に浸したガーゼできれいにしていた。もちろん、血が付いていると切れが悪くなるから、先生のためでもあるが、もしそのまま手術が終了すれば、このあとの洗浄が楽になる。ビーカーに生理食塩水を入れて、もう使いそうにない器械をそこに浸けておくのも千里の裏技である。
千里にとってオペ室の仕事で最も腰に負担がかかったのは、あえて挙げるとすると、長時間立ち続けることと、器械の洗いだった。