20代半ばで坐骨神経痛に

20代半ばになると、千里は慢性的に右側の臀部が痛くなった。坐骨(ざこつ)神経痛である。

「もう、ダメ~」

手術が終わってナースステーションにへたり込むと、事情をよく知っている師長が声をかけてくる。

「横になりな」

「へ? ここで、ですか?」

「右が痛いんでしょ? 右を上にして横向きになりな」

「は、はい」

師長はナースシューズを脱ぐと、坐骨神経の位置を狙って親指でグリグリと押してきた。

「く~、効く~」

千里は身を捩(よじ)って悶絶した。

「私、キューピーコーワゴールド、毎日、飲んでるよ。あれは効くね~」

「そうなんですか?」

「一度飲むとやめられないね。千里さんも飲んだら?」

(こわっ!)

やめられないという言葉を聞いて、千里は飲むまいと思った。このとき以来、千里は坐骨神経が痛むと、そのたび師長にグリグリをやってもらうようになった。

(こんな姿、先生たちに見せられないな)

華やかに見えるオペ室ナースも、実はみんな腰痛に苦しんでいるのが実態である。

 

※本稿は、『看護師の正体-医師に怒り、患者に尽くし、同僚と張り合う』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


看護師の正体-医師に怒り、患者に尽くし、同僚と張り合う』(著:松永正訓/中央公論新社)

10刷となった『開業医の正体』、待望の姉妹編。

一人の看護師が奮闘する日々を追いかけ、看護師のリアルと本音を包み隠さず明かします。