厚生労働省が公表する「令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」によると、全国で就業する准看護師・看護師・助産師の数は、令和4年末時点で約160万人だったそう。「病院勤務ってどんな仕事?」「どうやって技術を磨いていくの?」など、看護師の仕事についてあまりよく知らない…という方もいるのではないでしょうか。医師で作家の松永正訓先生が看護師・千里さん(仮名)の実話を元に、仕事内容や舞台裏をまとめた書籍『看護師の正体-医師に怒り、患者に尽くし、同僚と張り合う』から、看護師のリアルな舞台裏を一部お届けします。千里さんは20歳で「海が見える病院」の3階南病棟に配属された後、22歳で自治医大病院のオペ室に研修へ。「海が見える病院」の新病院が完成し、そこでオペ看護師2年目として働いていたところ――
ライバル登場
オペ室勤務の2年目の4月に新しいスタッフがオペ室に加わった。遥香先輩。千里よりも2学年先輩だ。彼女は、元々は旧病院のオペ室で働いていた。そして千里の1年後に自治医大のオペ室に1年間研修に出たのである。その遥香先輩が帰ってきた。
千里は遥香先輩の評判を3南病棟にいたときから何度も聞いていた。「よくできる」「優秀」「若手のホープ」。医師も看護師も褒めていた。遥香先輩はオペ室勤務になると、さっそく器械出しや外回りとして活躍した。
でも数か月経っても、千里は、遥香先輩の器械出しを一度も見たことがなかった。二人は器械出し・外回りのペアを一回も組まされていなかったのである。師長はどういうふうに考えたのだろうか。確かにオペ室にはベテランのナースもいたが、千里と遥香先輩がすでにエースのような存在になっていた。師長からすると、この二人を組ませるのはもったいない。別々の手術室で働いた方が、それぞれ力を発揮できる。そう思ったのではないか。
だから、千里は遥香先輩がどういう器械の出し方をするのか知らなかった。ラウンジで一緒になってもほとんど話をしなかった。自分は後輩なので、なれなれしく話しかけることはできない。遥香先輩はみんなと打ち解けてよくお喋りしていたが、千里には話しかけてこなかった。
みんなで談笑しているときに、千里はふと遥香先輩の方に目をやった。すると彼女は周りの人間をしっかりと見ていることに気づいた。人の内面を観察するように。実力を値踏みするように。こんなに人のことを見るナースは初めてだと、ちょっと怖かった。