遥香先輩の器械出し
千里は思い切って質問してみた。
「遥香先輩の器械出しってどんな感じなんですか?」
「うまいですよ」
即答だった。
「自治医大に行ってさらにうまくなりました。帰るときは、向こうの師長に引き止められたそうです」
自分はそんなことはなかった。ワインばかり飲んでいないで、もっと学んでいればよかった。
「こういうことがありました。彼女が器械出しのとき、胃切除の手術で、ぼくは最初から最後まで器械の名前を一切言わなかったんです。ぼくの思っているものが出てこなかったのは3回だけでした」
千里はショックだった。自分は言われた器械をいかに早く渡すかが看護師の仕事と思っていた。でも遥香先輩は違う。自分で判断して器械を渡しているのだ。千里は根本的に考え方を改めないといけないと思った。