厚生労働省が公表する「令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」によると、全国で就業する准看護師・看護師・助産師の数は、令和4年末時点で約160万人だったそう。「病院勤務ってどんな仕事?」「どうやって技術を磨いていくの?」など、看護師の仕事についてあまりよく知らない…という方もいるのではないでしょうか。医師で作家の松永正訓先生が看護師・千里さん(仮名)の実話を元に、仕事内容や舞台裏をまとめた書籍『看護師の正体-医師に怒り、患者に尽くし、同僚と張り合う』から、看護師のリアルな舞台裏を一部お届けします。
今日もナースは腰が痛い
ナースの職業病といえば腰痛である。これに苦しめられない看護師はほとんどいない。
千里が3南病棟で働いていたとき、ときどきリーダーを務めたが、普段は現場で先輩の手足となって動いていた。リーダー看護師に割り当てられると、病棟の巡回のほかに看護記録をまとめるという仕事がある。このときだけ、椅子に座ることができる。逆にいえば、このときを除いて看護師は常に立って仕事をしている。
ナースコールが鳴ったときや、先輩に指示されて動くときは、悠長に歩くということはまずない。いつも早足で病棟内を動き回っていた。
病棟勤務のベッド移動で腰を悪くする看護師もいた。また患者の体位交換や、ベッドから車椅子への移乗は、非常に腰に負担がかかる。大きな声では言えないが、体重の重い患者はちょっと勘弁してほしいと千里はいつも思っていた。だから看護師にモテる患者になるには体重を減らすことが大事である。
また、病棟では、尿量を把握するために患者の蓄尿を常にやっていた。患者の尿は蓄尿甕(がめ)に溜められる。甕の容量は2リットル。糖尿病の患者は尿量が多いので、一日に甕を三つ使うこともあった。
この蓄尿甕がトイレにいつも20個は並んでいた。24時になると、一日の尿量を計算して、汚物流しに捨てる。これはかなりの重労働である。さらに流したあとは、甕を洗う作業もある。甕はガラス製なので、空でも十分に重い。これをきれいに洗うのは相当骨が折れた。千里は20歳にして腰痛だった。