看護師総出で「プチ引っ越し」がスタート

「じゃあ、Aさんをナースステーションの隣に。Bさんは、落ち着いているから、いったん部屋から出して廊下で待機。Cさんも少し遠くへ離します。その部屋にDさんを入れましょう。ちょっとハルン(尿)が減り気味だからね。廊下で待機のBさんは、最後に空いた部屋に入れて。じゃあ、やりましょう!」

看護師総出である。二人の補助看護師も手伝う。

ベッドはけっこう重い。最低でも二人はいないと運ぶことができない。千里が驚いたのはマイベッドを使っている人がいることだ。入院生活が長期になると、自分に合ったベッドを購入して自分用として使っているのだ。リッチな人なのだろう。こういうベッドは、病院のベッドよりもさらに重い。3人以上で運ぶことになる。

もちろんベッドだけではない。床頭台(しょうとうだい)もある。床頭台とはベッドサイドに置かれた、患者の日用品を収納する台のことだ。小さなテーブルも付いているので、水差しやコップを置いたりもできる。けっこう高さがあるので、やはり一人で運ぶのは難しい。

『看護師の正体-医師に怒り、患者に尽くし、同僚と張り合う』(著:松永正訓/中央公論新社)

さらに衣装ケース。ほとんどの患者のベッドの下に衣装ケースがあり、その中に下着から部屋着までびっしり入っている。衣装ケースはタイヤが付いていないため、これも一人で運ぶのは無理だった。

さながらプチ引っ越しである。千里にとってベッド移動はかなりの重労働だった。たぶん、みんなもそう思っているはずだ。スライドパズルがすべて終わると、師長はご満悦という表情になる。

「ごくろうさま! みなさん、今日も一日がんばって!」

千里は、肩で息をしながら、もう一日分働いたと思った。