ステルベン

さて、ベッド移動が終わった翌日。先輩看護師の知佳子が個室のおばあちゃんの朝食介助をしていた。スプーンで全粥(ぜんがゆ)をすくい、おばあちゃんの口の中に持って行く。おばあちゃんは、ゆっくりと口を動かす。

2回、3回と繰り返したところでおばあちゃんのモグモグが止まった。

「小松さん! 小松さん!」

名前を呼んだが反応がない。動きが完全に停止していた。思わず脈を取ったが、何も触れない。そのとき、個室の前を千里が通りかかった。

「千里さん! 先生を呼んで」

「どうしました?」

「ステルベンみたい」

こうして二日連続でベッド移動になった。

 

※本稿は、『看護師の正体-医師に怒り、患者に尽くし、同僚と張り合う』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

【関連記事】
オペ室看護師2年目で直面した壁。自分は「できる」と思っていたはずが、先輩との実力差を知り愕然として…
オペ室の看護師はどんな仕事をしている?新人が最初に覚えることは?意外と知らない「看護師の正体」
「腰痛」に苦しむ看護師たち。3、4時間立ちっぱなしは当たり前、20代半ばで坐骨神経痛に…。オペ室勤務のナースが語るリアル

看護師の正体-医師に怒り、患者に尽くし、同僚と張り合う』(著:松永正訓/中央公論新社)

10刷となった『開業医の正体』、待望の姉妹編。

一人の看護師が奮闘する日々を追いかけ、看護師のリアルと本音を包み隠さず明かします。