ステルベン

さて、ベッド移動が終わった翌日。先輩看護師の知佳子が個室のおばあちゃんの朝食介助をしていた。スプーンで全粥(ぜんがゆ)をすくい、おばあちゃんの口の中に持って行く。おばあちゃんは、ゆっくりと口を動かす。

2回、3回と繰り返したところでおばあちゃんのモグモグが止まった。

「小松さん! 小松さん!」

名前を呼んだが反応がない。動きが完全に停止していた。思わず脈を取ったが、何も触れない。そのとき、個室の前を千里が通りかかった。

「千里さん! 先生を呼んで」

「どうしました?」

「ステルベンみたい」

こうして二日連続でベッド移動になった。

 

※本稿は、『看護師の正体-医師に怒り、患者に尽くし、同僚と張り合う』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


看護師の正体-医師に怒り、患者に尽くし、同僚と張り合う』(著:松永正訓/中央公論新社)

10刷となった『開業医の正体』、待望の姉妹編。

一人の看護師が奮闘する日々を追いかけ、看護師のリアルと本音を包み隠さず明かします。