(写真提供:Photo AC)
厚生労働省が公表する「令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」によると、全国で就業する准看護師・看護師・助産師の数は、令和4年末時点で約160万人だったそう。「病院勤務ってどんな仕事?」「どうやって技術を磨いていくの?」など、看護師の仕事についてあまりよく知らない…という方もいるのではないでしょうか。医師で作家の松永正訓先生が看護師・千里さん(仮名)の実話を元に、仕事内容や舞台裏をまとめた書籍『看護師の正体-医師に怒り、患者に尽くし、同僚と張り合う』から、看護師のリアルな舞台裏を一部お届けします。

新人ナースが最初にやること

千里たち新人が最初にやることは、器械の名前を覚えることである。外科医たちが使う器械の数は、膨大である。

また、手術を行うのは外科医だけではない。外科医は主に消化器と乳腺の手術をする。そのほかにも、手術をする医者は、脳外科医・眼科医・耳鼻科医・口腔外科医・呼吸器外科医・泌尿器科医・産婦人科医・整形外科医・皮膚科医・形成外科医がいる。科によって使う器械が異なり、すべてを合わせるとちょっと数えきれない種類になる。

一度にすべてを覚えるのは誰でも無理だろう。そこで、まず最も基本的な器械を覚えるために、リーダー看護師は外科で使う「開腹一式」のセットをみんなの前に持ってきた。洗浄は終わっていて、これから滅菌にかける器械だ。

開腹一式とは、外科医が患者のお腹を開けて、胃がんに対して胃の部分切除をして(リンパ節郭清<かくせい>はせず)、お腹を閉じるのに必要な器械のことである。千里はそれこそ鑷子(せっし)(ピンセット)くらいしか見たことがなかった。

その一式に含まれていたのは……メス・コッヘル・ペアン・モスキート・ミクリッツ・ケリー・ブルドッグ・アリス・アノイリスマ・ヘプネル血管鉗子(かんし)・ドワイヤン腸鉗子・バウフワンドハーケン・スパーテル・持針器・開創器・ケント鉤(こう)・ハサミなど。さらに細かく種類がある。

メス一つをとっても、円刃刀(えんじんとう)と尖刃刀(せんじんとう)の2種類がある。さらにサイズ違いがある。鑷子も解剖鑷子・アドソンの無鉤(むこう)鑷子・アドソンの有鉤(ゆうこう)鑷子。針の種類もさまざまで、丸針と角針の違いのほかに大きさの違い。持針器もヘガールとマチュー。ハサミは直剪刀(ちょくせんとう)と曲剪刀(きょくせんとう)、さらにメッツェンバウム剪刀の短いやつと長いやつ。虹彩(こうさい)剪刀もメイヨー剪刀もある。

糸となると、種類と太さがいくらでもあった。絹糸・ナイロン糸・バイクリル・プロリーン・マクソン・ニューロロン・サージロンなどなど。それぞれに太さが5段階くらいある。