「清潔」な人間になるまで

手洗い(手の消毒)はオペ室で働く人間にとって基本中の基本なので、千里は少し緊張しながら教わった。

20台くらい並んだ洗面台の前に立ち、まず石鹸で手を洗う。次に足踏みペダルを踏むと、手の平サイズのブラシが出てくる。同様に足踏み動作でイソジンが流れてくるので、それをブラシで受ける。

ブラッシングは爪先から始めて、指、手首、肘まで進めていく。この際、指先を上にして、肘は下げる。洗った液体は汚いと考える。指先を下げると汚い液が指につく。肘の先端から液体が滴るのが正しい。

指を消毒するときは、指を六面体に見立てる。指の腹側の正面・左・右。指の背側の正面・左・右。漫然と消毒せずに、六面体を磨く。最後にまた足踏みで水を出し洗い落とす。この動作を2回繰り返すと、手は消毒された状態とされる。

次は、滅菌手術着を補助看護師に着せてもらう。術衣の背中側には紐がついているので、補助看護師はその紐を利用して看護師や術者に着せる。最後に紐を結ぶ。滅菌手袋を清潔操作で着用すれば完成で、その人は「清潔」な人間となる。

ただし、術者の背中と足元は「清潔」とは見做(みな)されない。同様に頭と顔も「清潔」ではない。腕と胸、腹までが「清潔」区域と考えていいだろう。