渡辺 後々になってこの選挙を振り返ったときに、思い出されるシーンが2つか3つあると思うのです。ひとつはバイデンの討論会での出来の悪さ。
安藤 口ごもったり、言い間違いをしたりと、大失点の場面が目立ちましたね。
渡辺 弱々しいバイデンと、演説中に銃撃を受けた直後にトランプが拳を振り上げ、「ファイト!」と連呼した姿勢とのギャップは大きかった。
中島 たしかにあの場面はテレビで見ていても印象的でした。
渡辺 もうひとつ、選挙戦の最後のほうで、錚々たるハリウッドのセレブたちがハリスを応援しました。しかし物価高で日々の生活に苦しんでいる人が多いなか、民主党はお金持ちで華やかで進歩的なセレブたちに支持される政党だというイメージを与えてしまった面があります。
安藤 反対にトランプ氏はマクドナルドで働くパフォーマンスをしたり、ゴミ収集車に乗ったりと、庶民の側にいることをさかんにアピールしていましたね。
渡辺 はい。どちらかといえば、これまでは民主党が労働者に寄り添う党で、共和党はお金持ちや大企業が支持しているというイメージでした。それが気づいてみると逆転していた。
安藤 私も同意見です。ハリス氏はカリフォルニアの司法長官を務めた、エリート中のエリート。しかも、一分の隙もないファッションで選挙戦に臨んでいました。そこにセレブがどんどん応援にやってくる。
人々は「民主党は貧しい人たちに寄り添って、自分たちにパンをくれる政党だったはずなのに、いつのまにかエリートで、ハイクラスでセレブな人たちの党になった」と感じたのではないか。それをハリス氏という存在が象徴しているように見えました。
渡辺 そのうえハリスの言葉には重みがないと、表に出るたびに評価が下がっていった。
安藤 彼女の言葉はサラダみたいに混ぜこぜで、結果として人に何も伝わらない「ワード・サラダ」と言われていましたね。わかりにくくて難解な言葉も多かった。人々の心を動かすのは高邁な理想ではなくて経済、パンだという選挙の鉄則を忘れたところに敗因があったのでは。
渡辺 まったくおっしゃる通りだと思います。