彼女が鬼となった姿を見られたときと同じように、ファントムも仮面の下の顔を見られてしまったときには狂気に駆られてしまうのではないか。
そうか、これはファントムが心の底で求めているものが表れている歌であって、うまく歌おうとしなくていいんだ。そう思ってオーディションに臨んだんです。
プリンスは、僕の前に受けた歌のうまい方たちではなく僕を選んだ。「浅利(慶太)さんが、市村はファントムの歌のキーは出ないと言っていたけれども、稽古で出させるから大丈夫だ」と。実際、僕の音域はどんどん広がっていったんですよ。(笑)
それでも大事にしたのは、やっぱりうまく歌おうとすることではなく、ファントムの内面。声にならない思い。
クリスティーヌと出会って生まれて初めて愛を知るものの、自分の醜さを思うと触れたくても触れられない。そこで振り絞るように歌う「クリスティーヌ、アイラブユー」……。
その気持ちを経験しているから、『ラブ・ネバー・ダイ』で10年後にクリスティーヌと再会するファントムのことも、理解できるんだよね。