悲しみがにじみ出る背中であれたら(市村正親)
<今月のひとこと>

役を生きれば肩の力が抜ける

実は、『オペラ座の怪人』のあとに『ラブ・ネバー・ダイ』に出演して、ファントムを時の流れの通りに続けて演じている俳優は、世界で僕だけなんです。『ラブ・ネバー・ダイ』の世界初演を担ったラミン・カリムルーさんでさえ、出演した順番は逆。

だから、ファントムを生きてきた僕としては、ファントムを演じるのではなく、そこにいるだけでファントムを感じてもらえるようになったらいいな、と思っている。

僕はよく「背中が悲しい」と言われるんだけど、それこそ、ファントムの悲しみがにじみ出るような背中であれたら、と。

昔、バレエの先生に言われたことがありました。「お芝居は表現しなくていいのよ。見せよう、聴かせようとしたら、お客さんは引いてしまうけど、あなたがそこで生きていれば、想像して感じてくれるから」と。

確かにその通りで、ゴルフで飛ばそうとすると失敗するように(笑)、演じようとするから力んでしまうのであって、役を生きていれば肩の力が抜けるんです。