かつて東日本大震災が起きたとき、糸井重里さんと対談したことを思い出す。

あの頃、誰もが心を痛めた。被災地の人たちは当然のことながら、東京に住む人間でさえ、なにをすればいいのか途方に暮れて、仕事も手につかなくなった。糸井さんもそうだったという。被災地に行かなきゃと思いつつ、その理由が見つからずに悶々としていらしたそうだ。

「でもあるとき、被災した若い女性とネット上で知り合ったんです。どうしてほしいかと率直に問いかけたら、『避難所へ行って話を聞いてあげてください』って言われたんです。被災した人はもれなくひどい目に遭っている。自分よりはるかに悲しい思いをしている人がたくさんいる。自分の経験なんて大したことない。語るのも憚られる。そう思っている人たちが数多くいるんですって。だからこそ、語れる場所と時間を作ってあげるのが、被災者以外の人間のできることなんじゃないかって、彼女に教えられたんです」

糸井さんの言葉には説得力があった。

そうか。聞くことが力になるのか。でも私はそのあと東北へ行って被災者の人たちの声に耳を傾けようという行動を、結局起こさなかった。そのことがずっと心にチクチク残っていた。よし、今度こそ実行しよう。