とはいえ、宝立町の人たちの話をまんべんなく聞くことは不可能だ。まして私はプロのセラピストでもない。個室を作って「はい、お次の方!」と順番にお話を伺うというのも違う気がする。
どうやってみんなの話を聞くことができるだろう。考えた末、
「そうだ、一緒に餃子を包んだりつまんだりしながらだったら、皆さんと自然にお喋りができるんじゃないかしら」
思いついてM子に伝え、避難所のリーダーにお伺いを立てたところ、「いいねいいね」という返答をいただいた。
こうして意気込んで現地入りしたものの、ぺちゃんこに潰れた家々や津波に呑まれて荒らされた町並みを見るうちに、私のほうが落ち込んだ。
なんとか倒れず残った公民館にて餃子を包んだり食べたりお酒を酌み交わしたりしながらお喋りをし、泣いたり笑ったり抱き合ったりした。復興を待つばかりの日常の、いっときの気分転換にはなったかもしれない。
久しぶりに餃子が食べられてウチの子も喜んでいますと嬉しそうに語ってくれた若いお母さんもいた。でもこれで本当に皆さんのお慰めになったのか。少しは元気になれたのか。たった一回、よそ者が来ただけで……。
珠洲市での餃子パーティのあと、輪島に寄った。
大火災で焼失した朝市通り周辺にはまだ燻った匂いが漂い、まるで爆弾が落とされた戦場のごとき惨状だった。でもそのときは、地元の人々の心の声をゆっくり聞くこともなく、ほとんど素通りしただけだった。