作品に出会い使命感
初代・鳥濱トメ役の大林素子さんにお誘いいただいて、舞台『Mother〜特攻の母 鳥濱トメ物語』に出会ったのが12年前のことです。「なんて清らかで、なんて大義のある作品なんだろう」と衝撃を受けました。
その時から、トメさんの言葉「あなた達のことは絶対あたしが忘れさせやしないからね…」と共に、僕の胸に炎がポッと灯ってしまったんです。最初は特攻隊員ではなくて、どちらかというと特攻隊と敵対することもある憲兵の役。何年かして特攻隊を演じるようになって、ますます『Mother』にのめり込んでいき、今日までこの舞台と関わってきました。
『Mother』に出演する特攻隊役の役者は、“教練”という特攻隊さながらの準備運動を稽古前に1時間行っています。声を合わせながら腹筋、背筋、天突き体操(手を掲げて行うスクワット)などを全力でやって、汗だくでハァハァ言いながら稽古に入る。“教練”を実際に披露するシーンは舞台には一切ないのですが、不思議なもので、教練をすることでじわりと芝居にリアリティが出てくるんです。
特攻隊役は若い役者たちなんで、初顔合わせの時はやっぱりチャラチャラしたやつらに見えるんですよ。ピアスなんかしてて。別にピアスしてていいんですけど(笑)。これが毎日教練を一緒にしていくと、目の鋭さだとか、雰囲気が一気に変わってくる。
劇場に足を運んでくださった方からはいつも「特攻隊員の人たちが本物みたいに見えた」っていう感想をいただきます。これはやはり“教練”の賜物なのかなと思うんです。

舞台に関わる人間は、舞台前に鳥濱トメさんのお孫さんの赤羽潤さんが営んでいる「薩摩おごじょ」という新宿の居酒屋を訪ねて、お話を聞くというのも『Mother』の習わしになっています。
そしてキャストには、それぞれ自分のモデルとなった実在の人物がいるので、よく研究していきます。中には実際に鹿児島の知覧に赴いてご家族を訪ね、写真を見せてもらって髪型まで似せてくるような役者もいます。舞台となる食堂のあった知覧には、ひ孫さんの鳥濱拳大さんがいらっしゃるので、現地を訪ねる人間のアテンドをして下さって、お話を聞かせてくださいます。
とにかく『Mother』という作品は、僕を含め関わるみんなが勉強熱心になり「本物の舞台にしよう」という意欲が芽生える、そういう作品なんです。
そして観ていただければわかるのですが、この舞台の大きなテーマとして「誰のために」「何のために」死んでいったのか、があります。「特攻」とひとくくりにしても、1人1人に違った事情も家族もあった。「お国のために」だけではない気持ちが…。僕は実際に戦争に行ったわけではないので簡単に言えませんが、もし家族に残すとしたら、心配させないような、前を向いてもらう手紙を残したかもしれません。