そして“たすき”は渡された
今回の『Mother』の主演は浅香唯さんです。
2019年、11年間トメさん役を務めた大林素子さんに変わり、2代目トメさん役を探さなければいけなくなりました。制作をしているエアースタジオの方達というのは、芝居では一流でも、芸能界に精通している訳ではなくて、キャスティングの策を持っていなかった。
「ワッキーさん誰かいい人いますかね?」と演出の藤森一朗さんに相談されて、僕の頭に真っ先に浮かんだのが浅香唯さんでした。僕は仕事で何度かご一緒したことのある唯さんのお人柄を知っています。大袈裟じゃなく、太陽みたいで誰にでも愛される方、誰のことも愛することができる方なんです。
当時、僕はプロデューサーという立場ではなかったのですが、大林さんからたすきを渡されたように感じていました。そんなわけで、何年かぶりに僕から浅香唯さんに直接ご連絡して、「『Mother』でトメさん役やってくれないですか?」とお願いしたんです。僕と唯さんとの最初の出会いですか?何十年も前、別々の仕事で、偶然同じホテルに泊まっててご挨拶した…それが始まりで、時々現場で一緒になったり。
最初はあまりに突然だったこともあり、唯さんも固辞されたのですが、僕が作品愛を熱く語り、しつこく食い下がったところ、「じゃあ、やります」と最後には言っていただきました。
本当に気取ってない方なので、稽古の雰囲気もすごくいいんです。僕が休憩時間に携帯で彼女のヒット曲の「C-Girl」をかけたら、楽屋から飛び出してきてフリ付きで踊ってくれたこともありました。あの姿を見たら、唯さんの表裏のない人柄がみんなに伝わると思います。僕の人選に間違いはなかったって思えた瞬間でしたね。(笑)