倉本 躓き転んでいることに気づくべきなのに、鈍感すぎると。
江原 ええ。私は先生の『歸國(きこく)』という作品によって開眼しました。終戦から65年を経た終戦記念日の深夜に、南の海で玉砕した英霊たちを乗せた汽車が東京駅に到着するというところから始まる舞台ですが、「こんな日本のために戦ったわけじゃない」という英霊たちの悲痛な叫びや切ない思いに触れ、号泣してしまいました。
倉本 僕は終戦直後の渋谷を知っているんです。今のスクランブル交差点のある場所は瓦礫(がれき)の山で、戦争のすさまじさを物語っていました。
その同じ場所で若者がチャラチャラしているのを見ると、腸(はらわた)が煮えくり返るというか、英霊たちに申し訳なくてたまらないんですよ。
江原 私は『歸國』には、ずいぶんと大勢の人が出演しているのだなと思いながら鑑賞していたのですが、実際の登場人物は少なかったのですよね。
倉本 ハハハ。その話を伺ったとき僕は、「ならば飲みに行くだろうから、近所の飲み屋に『安くしてやってくれ』と頼まなくちゃ」とか言って受け流していたけれど、その実、嬉しかったんです。
江原 英霊は先生に感謝して、喜んでいたと思います。
倉本 そうですか。舞台『歸國』は劇場のキャットウォークに英霊が並んで、一斉に客席に銃を向けているところで終わるという演出に変えて、再演したいと思っています。
江原 ぜひ、拝見したいです。