日本オペラ協会公演『ニングル』で、ニングルの長を演じる江原さん(c)公益財団法人日本オペラ振興会

倉本 「豊か」を辞書で引くと、「リッチであること」のあとに「且つ幸せであること」と記されています。ならば便利であることが幸せをもたらしたのかといったら、そんなことはない。もたらされたのは、感謝を忘れた心と自然破壊という悲劇でしょう。

このことに気づいてほしいという思いから生まれた作品が『ニングル』なのです。

江原 インターネットやメールの発達によって、人々は直接的な対話を失ってしまいました。とはいえ私も文明の進化の恩恵を受けて暮らしているので、大きなことは言えないというのがつらいところです。

倉本 僕だって寒ければヒーターをつけるし、原稿は手書きですが、人と連絡をとりあう手段には電話を使っています。時代が進化するのは世の常で、そのこと自体が悪いわけではない。問題は日本という国がブレーキのない車だということですよ。

江原 このあたりで止めておこうと考える聡明さに欠けていると。

倉本 最近、頭に来ているのは夜桜のライトアップです。月の光に照らされる夜桜にこそ情緒があるわけで、ライトを煌々とつけて余計なエネルギーを消費して喜んでいるなんて言語道断。

第一、下からライトをあてるのは、スカートの中を覗いているようなもので、実に下品な発想だと思いますね。もっとも、金があれば何をしてもいいという風潮が下品なわけですけれど。