脚本家・演出家の倉本聰さん(右)と、スピリチュアリストでオペラ歌手の江原啓之さん(左)。富良野の倉本さんのアトリエで(撮影:本社・武田裕介)
北海道・富良野の大自然の中に暮らす倉本聰さんを、江原啓之さんが訪ねました。倉本さん原作の『ニングル』がオペラ化され、江原さんがその舞台に演者として立ったことがご縁なのだとか。作品に込められた「真の豊かさとは何か」について、語り合います
(構成:丸山あかね 撮影:本社・武田裕介)

前編よりつづく

日本社会はブレーキのない車

江原 アイヌ語で「ニン」は「小さい」、「グル」は「人」という意味で、『ニングル』はアイヌに伝わる小人伝説がもとになっているということですが。

倉本 面白そうだと調べていくなかで、ニングルを見たという人に遭遇しましてね。3人組のお婆さんたちが娘時代に見たと言っていて、「髭が生えていた」とか「裃(かみしも)を着ていた」とか「下駄を履いていた」といった話をしてくれたんです。

江原 へぇ~。

倉本 神主のような装いだったと証言する人もいました。ニングルが電車に乗ろうとしているところを目撃した人もいて。

江原 ワハハハハ。

倉本 コロポックルは妖精だけど、ニングルは自然界の神なのかもしれないと感じたことが、小説を書こうという発想につながりました。人間社会がおかしくなったのは便利さを追求したからだと思い始めた頃と、時期が重なっていたんです。

たとえばテレビのチャンネルをリモコンで操作する。人間は知能が発達したことによって、サボることを覚えたというのが持論です。

江原 便利であることと、豊かさは似て非なるものですよね。