「人にすすめたい」と思える商品をつくる

北尾重政と勝川春章という、二大一門を率いる大物絵師が共作した『青楼美人合姿鏡』とは、どんな本だったのか。

簡単にいえば、「遊女たちの紹介本」である。二人の絵師が才能を思う存分に発揮し、その美しい姿を描いた。豪華カラー本である。

『蔦屋重三郎の慧眼』(著:車浮代/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

ただ、遊女だからといって、妖艶な姿を描いたのではない。日常の遊びに興じ、普段の生活を過ごす、「ありのまま」の彼女たちの姿だ。

この本には、教養のある遊女たちが詠んだ句も掲載している。顧客も知らない、彼女たちの顔。出来上がった本書を見た遊女たちは、どのように感じただろう。

よりたくさんの人に、見てもらいたい。そう思ったのではないか?

遊郭や遊女たちから資金を集め、宣伝のためにつくったと考えられる豪華本。

だからこそ蔦重は、彼女たち自らが「人にすすめたい」と思える本になるよう力を尽くしたのだ。