地味でもロングセラーを大事にする
着実こそ基本。それを象徴するのは、蔦重が版元として自立したあとで、真っ先に交渉した相手だ。
それは人気の狂歌師でも、絵師でもない。三味線を伴奏に物語を歌う浄瑠璃、「富本節(とみもとぶし)」の家元である富本豊前太夫(とみもとぶぜんだゆう)で、彼と独占契約を結んだ。
三味線といえば、江戸の人々が好んだ「習い事」である。武家や裕福な商家だけでなく、庶民も習っていた。富本豊前太夫といえば、江戸で一、二を争う、三味線の歌い手である。その教本を出していけば、確実に売れる。
地味ではあるが、ロングセラーを狙えるもの。蔦重はまさに、確実なところから仕事を固めていったのである。その姿勢は見習うべきだ。