現在放送中のNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』。横浜流星さんが演じる主人公は、編集者や出版人として江戸の出版業界を支えた“蔦重”こと蔦屋重三郎です。江戸のメディア王と呼ばれた重三郎は、どのようなセンスを持ち合わせていたのでしょうか?今回は、書籍『蔦屋重三郎の慧眼』をもとに、総合印刷会社でアートディレクターやデザイナーの経験を持つ時代小説家・車浮代さんに、重三郎の仕事術について解説していただきました。
商売は「着実」を基本とする
蔦重が出した出版物といえば、多くは歌麿や写楽の浮世絵であったり、江戸の世を風刺する本や春画など、派手なものを想像する方が多いだろう。
しかし意外なようだが、彼は初期の頃から、「往来物(おうらいもの)」と呼ばれた子ども向けの教育書や、歌や三味線などの入門書を重視していた。
どうして、そんな地味な出版物を重んじたのか?
それは「確実に売れる」からだ。派手な挿画を入れた黄表紙は、大ヒットになるかもしれないが、失敗することだってある。それに対して、教育書や入門書は確実に売れる。
確実に売れる本があったからこそ、リスクのある奇想天外な企画にもチャレンジできたのだろう。「着実」こそ、本当は商売の基本なのだ。