真剣に咲く

翔子がカメラを持ち「愛してる愛してる」と呪文を唱えながら花を撮る。その傍で私は花の姿に驚いた。どの花も生きるために懸命に趣向を凝らし咲いている。路傍(ろぼう)の小さな花でさえ、か弱くはなくしっかり自分を主張している。

花々は決して静かにひっそり咲いているのではない。もっと強烈に、もっと真剣に咲いている。人間を喜ばせるためなどではなく、自身の命のために咲いている。見事にその意思が見える。

『いまを愛して生きてゆく ダウン症の書家、心を照らす魂の筆跡』(書:金澤翔子 文:金澤泰子/PHP研究所)

どの花も原型を間違えることなく正しく咲く。芽吹き花が咲き、実をつけ枯れ落ち生涯を終える。そして来年も咲く。

翔子が枯花に「また春に会おうね」と声を掛けている。来年もまた花が咲く仕組みを知っている。「花はどんな絡繰りで、小さな種から芽吹き、全てを全うして終わるんだろうねえ、翔ちゃん」。