命の愛おしさ

散歩中にたくさんの小さな蟻が、忙しそうに食べ物を運ぶ姿を発見し、翔子は熱心に観察を始めた。蟻にお菓子をあげたいと思い立ち、散歩に行く時は細かいお菓子の粉を持っていく。

蟻は自分の体よりも数倍大きなお菓子の粉を高々と頭上に掲げて、脇目も振らずに、懸命に運ぶ。蟻にしてみれば、高い山、深い谷ありの険しい道に違いないのに、たくさん運ぶ。

(左)金澤泰子 (右)金澤翔子
(c)アトリエ翔子

翔子は蟻がこのお菓子を蟻の家(巣)に持って行って家族の皆と楽しいパーティーを開くと夢想している。ほんの少しのお菓子の粉で翔子は蟻の家族の日々を思い、お菓子撒きは欠かせなくなっている。

こんな小さな蟻も家族があり懸命に生きているという命のあり方を見つけた。微小な生き物にもリアルに家族があると知り、命の愛おしさを感受した。

 

※本稿は、『いまを愛して生きてゆく ダウン症の書家、心を照らす魂の筆跡』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。


いまを愛して生きてゆく ダウン症の書家、心を照らす魂の筆跡』(書:金澤翔子 文:金澤泰子/PHP研究所)

ダウン症の書家・金澤翔子さんの「魂の書」とともに、翔子さんとの日々を母の泰子さんが言葉に綴った一冊。

渾身の書と、それを見守る母の思いは、闇の中にいても光が見えてきて心を照らすような内容。