イタリア語で既婚者の女性向けの敬称“シニョーラ”。マリさんに向けられるその言葉のニュアンスが最近変わってきたそうです。その理由はというとーー。(文・写真=ヤマザキマリ)
女性の敬称の変化
イタリア語で未婚の女性の敬称を“シニョリーナ”(お嬢さん)というが、スペイン語の“セニョリータ”、フランス語の“マドモアゼル”といった同類の敬称も英語の“ミス”よりロマンティックな響きがあるのは、イントネーションが音楽的だからだろうか。地面にいた男性が、窓のバルコニーに佇む若くて麗しい女性に向かって両腕を広げ、朗々と愛の告白をしている姿を連想してしまう。
イタリアに暮らしはじめた頃の私も、まだ17歳の小娘でありながら、出会う人に「シニョリーナ」などと恭しく呼ばれると、特別扱いをされているような気持ちになったものだった。
日本人をはじめアジア系の女性は、欧米人に比べると年齢よりも若く見られがちなので、こうした国々では割といくつになっても“シニョリーナ”で通ってしまうことが多い。特に美容医療が発達し、化粧品の効能も優れているからなのか、昨今のアジア系女性は以前にも増して若々しく見える。
下手をすると40、50代までは悠々“シニョリーナ”でいける人もいるだろう。私のような、髪もボサボサでろくに化粧すらしないガサツなありさまの女ですら、“シニョリーナ”は40歳あたりまで続いた。