慎重に、速やかに

ふいに襲ってきた不安を胸にあたりを見回すと、親切にも「ICカードを先にタッチしてから新幹線の切符を通す」と書かれた貼り紙を発見。

納得しかけたが、それではピッとタッチしてから切符を通すまでの時間は何秒くらいが許容範囲なのだろう、と新たな疑問が湧いた。

モタモタしていたら、ブザーが鳴ったりするかもしれない。慎重に、だが速やかに、このミッションを遂行しなければ。

瞬きすら忘れるほど集中しながらICカードをタッチし、精一杯素早く切符を通す……すると、無事に改札が開いた! 小さくガッツポーズして、まるで「いつも乗っていますよ」みたいな顔をしながら改札を通った。

新幹線に乗り込むと、周囲は大荷物の観光客ばかり。ふいに彼らに向かって叫びたくなった。私は今日、20年ぶりに新幹線に乗ったのですよ。切符は自力で買いましたし、改札だって何ごともなく通ることができたんです、と。

本当に叫んだら笑われるだろうが、私にとっては胸を張れる、誇らしいできごとだったのだ。


※婦人公論では「読者のひろば」への投稿を随時募集しています。
投稿はこちら

※WEBオリジナル投稿欄「せきららカフェ」がスタート!各テーマで投稿募集中です
投稿はこちら