ドラッグラグが表面化

さらに、製薬協は、こうした薬価引き下げが続くことにより、国内の製薬企業が苦しむだけでなく、ドラッグラグ・ドラッグロスが表面化していることについても問題提起しています。

ドラッグラグとは、海外で承認された薬が日本で承認されて使えるようになるまで時間がかかること、ドラッグロスとは、海外で承認された薬が日本で開発・導入されず、使えないという状況のことです。

これはどういうことかというと、日本の薬価が低いことや将来的に引き下げられる見込みが高いことなどから、海外の製薬企業からすると日本向けに開発・販売したとしても相応の売り上げが見込めないため、日本向けの開発や販売に積極的になれない、あるいは全くしない事態が生じるということです※4 。

製薬協の調査によれば、2024年3月時点で、欧米で承認されている135品目の医薬品が、ドラッグラグ・ドラッグロス状態となっていたことが報告されています※6 。

※1 日経新聞、『薬価改定で医療費2500億円削減 特許切れ薬で下げ多く』https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA191NS0Z11C24A2000000/

※2朝日新聞、『水虫薬の誤混入、健康被害113件に 交通事故も14件』
https://www.asahi.com/articles/ASNDB6D4NNDBPTIL017.html

※3 日本製薬団体連合会、『医薬品供給状況にかかる調査結果』http://www.fpmaj.gr.jp/medical-info/results-of-survey/

※4 日本製薬工業協会、『製薬協 政策提言 2023』https://www.jpma.or.jp/vision/industry_vision2023/jtrngf0000001dg5-att/01.pdf

※5 日本経済新聞、『立民、国民民主が薬価制度法案を提出 毎年改定を廃止に』https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA206QW0Q4A221C2000000/

※6 PHARMA JAPAN, “135 Meds Still in Lag/Loss State in Japan, JPMA Task Force Revving Up Fight”https://pj.jiho.jp/article/251105/

※本稿は、『現代日本の医療問題』(星海社)の一部を再編集したものです。


現代日本の医療問題』 (著:木下翔太郎/星海社)


日本の医療は世界的に高く評価されている一方、近年ではさまざまな問題を抱えていることも事実。医師不足、医薬品不足、マイナ保険証、医療費増大、美容医療、終末期医療、医学部受験の過熱……こうした医療の諸問題について専門的な言説は数あれど、今後必要とされる医療制度改革に向けて、国民一人一人が日本の医療を考え、議論するための一助として、包括的な見取り図を整理! 現役医師にして医療研究者である著者が豊富なエビデンスをもとに日本医療の現在地を分析する。