大人で唯一生き残るのは……

―未知の世界に放り出されて、最初に心に変調を来(きた)したのは、目の前の現実を受け入れられない大人の先生たちだった。理想的な教師だった若原先生が悪鬼のように変わっていくさまは衝撃的だ。

僕がまず、描きたかった逆転がそこです。現代では「悪い子」としか見られない子どもが、この世界ではリーダーになる。逆に、現代で指導的立場にいる大人は環境の激変に耐えられない。子どもの方が未成熟な分、適応能力が高いと思うんですよ。

「漂流教室」から(C)楳図かずお

―大人で唯一生き残るのは、目立たない「給食のおじさん」だった関谷。性格が邪悪に豹変し、最後まで翔たちを徹底的に翻弄する。

彼に人気が出たのは意外でした。ずるがしこい一方で、間抜けなところが受けたのかな。幼児返りして三輪車に乗ったりね。この人は適応力というより、自分に理解できないことは徹底的に無視して、目の前の現実しか見ない人だから、逆に強いんだと思う。

でも、関谷は話を面白くするための人物でしかないんです。ああいう悪役が一人いないと、お話が面白くならない。そこは計算ずくですね。作者が適当にいたぶっちゃったところのある、かわいそうな人なんです。

―「漂流教室」は、大怪虫の来襲や疫病の発生、異様な姿の未来人類との戦いなど、冒険アクションとして波乱万丈の面白さだ。さらに、楳図さんが貸本時代からずっと挑戦してきた「時間SF」の最高傑作にもなった。

※本稿は、『わたしは楳図かずお-マンガから芸術へ』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


わたしは楳図かずお-マンガから芸術へ』(著:楳図かずお 聞き手:石田汗太/中央公論新社)

2023年に読売新聞で連載された「時代の証言者/楳図かずお 『怖い!』は生きる力」を再構成し、大幅加筆。

伝説となったユニークなエピソード満載で、生前の著者が自ら語り、聞き手の記者が可能なかぎり裏付け調査をおこなった「決定版自伝」。