『漂流教室』『まことちゃん』などの名作を生み出した漫画家・楳図かずおさんが、胃がんのため2024年10月28日に逝去されました。その楳図さんが、2023年に読売新聞で連載していた「時代の証言者/楳図かずお 『怖い!』は生きる力」がこのたび大幅加筆され、書籍『わたしは楳図かずお-マンガから芸術へ』として刊行。生前に楳図さんが記者・石田汗太さんを相手に語った<決定版自伝>から、一部を抜粋してお届けします。
漂流教室
「漂流教室」(1972年)のことをお話ししたいと思います。
―改めて言うまでもない1970年代の代表作。小学校の校舎が丸ごとタイムスリップし、文明が滅びた地球に放り出される。子どもたちの必死のサバイバルが始まる。
基本にあったのは、やはりジュール・ベルヌの小説「十五少年漂流記」です。あれのもっと規模壮大なものをやりたかった。校舎丸ごとにしたのは、主人公の高松翔(たかまつしょう)が終盤に叫ぶ言葉(「ぼくたちは、何かの手により、未来にまかれた種なのだっ!!」)を実現するには、15人ではとても足りないだろうと思ったからです。人類の未来を背負っていくためにはね。
もう一つ、「未来が危ない」というテーマがありました。当時は光化学スモッグで小学生の目が痛くなったり、廃棄プラスチックによる環境汚染が指摘されたりしていました。そういう漠然とした不安を掘り下げてみたかった。僕は作品のテーマを理屈で考える方ではありません。あくまでカンなんです。「このまま、未来にいいことばかりあるはずないぞ」っていうね。
今振り返ると、手塚治虫さん的な「明るい未来」への反発もあったかもしれないと思います。手塚さんの反対を行こうという感じですね。