漫画家の楳図かずおさん(右)と大の楳図ファンだというエッセイストの酒井順子さん(左)
「恐怖マンガ」というジャンルを確立し、多くの作品を世に送り出してきた、漫画家の楳図かずおさん。27年ぶりの新作は、絵画でストーリーを示していく新しい試み。「未来を予言している」ともいわれる楳図作品が生まれた背景について、大の楳図ファンである酒井順子さんが迫ります(構成=篠藤ゆり 撮影=藤原絵里奈)

<前編よりつづく

目に見える恐怖と見えない恐怖

酒井 怖いマンガを描きながら怖くなったりはしませんか?

楳図 ぜ~んぜん! 面白いとは思っているけど。大阪弁だと、「おもろこわ~」ですね。僕にとって《怖さ》とは、辻褄が合わなくなってしまう状態というか、危機感というか。怖さは理屈じゃなくて、倫理を超えたところに生まれると思っているんです。それを絵にしてきました。

酒井 恐怖を俯瞰で見ている。

楳図 それと、ストーリーの怖さも必要だけど、絵そのものが怖いことも大事です。だってそれは、すごい警告を発している状態でしょう。たとえば原爆の写真もそう。どんなに言葉で《怖い》と伝えても、崩れたり、溶けたり、歪んだりしている状態は一目で怖いと感じる。絶対にいけないことだとわかるから。

酒井 確かに言葉で説明されるより、1枚の写真のほうが力を持つことがありますね。