エンターテインメントも「自給」できる

舟橋村は、富山市に隣接している。そして、富山地方鉄道本線の電鉄富山駅と越中舟橋駅は5駅、15分ほどで結ばれている、とても立地のよい村なのだ。つまり舟橋村は、富山市のベッドタウンとして、人口を急増させているのである。

しかし、単に立地がよいという理由だけで人口が増えたのではない。舟橋村は、文化振興を最優先した政策を実行しているのだ。

(写真提供:Photo AC)

たとえば、越中舟橋駅には駅舎と併設する形で図書館が建設された。県からは「分不相応の立派な図書館」として、厳しい意見を言われたそうだが、それを押し切ってのことだ。そのおかげで、住民1人当たりの貸出冊数は年間26.2冊と日本一を誇っている。

また、舟橋会館というコミュニティセンターには、270人収容の大きなホールが併設されている。舟橋村民の10人に1人が訪れないと満席にならない「過剰設備」だ。ところが、住民の学習意識が高いため、満席になるのだという。

実は、私も講演会で呼ばれて行ったことがある。当日、2019年11月3日は三連休の中日であったにもかかわらず、ホールは立ち見が出るほどの満席だった。

このように文化・教養のレベルを上げていく政策をとっていけば、住民は集まってくる。

そして、そうした村の文化振興策のなかで、私が一番心を打たれたのが、農業の遊休地対策だった。

舟橋村もご多分に漏れず、高齢化で農業を廃業する住民が増えている。そこで、村が耕作放棄地を借り上げ、細かく区分けして、サラリーマンの世帯に貸し出しているという。しかも、農作物の栽培方法を、プロの農家から教えてもらえる仕組みにしているそうだ。

富山市という都市で基本的な生活費を稼ぎ、ときに、さまざまな文化的な刺激を受けて、短時間で田園風景の広がる豊かな自然に囲まれた自宅に帰る。

そして、晴れた日には畑に出て耕作に勤(いそ)しみ、雨が降れば図書館で本を読む。まさに「晴耕雨読」の生活である。

講演後に住民の人たちと少し話をした際、驚いたことに、皆が経済学者レベルの話を普通にしていた。

「なぜ、そんなに経済に詳しいんですか?」という私の問いに、「だって図書館でたくさん本を読んでいるからね」という答えが返ってきた。

舟橋村には、現役時代、定年後を問わず、ずっと住み続けられる豊かな生活環境と、自然と教養が身についていく文化的環境というふたつの特徴がある。それが人口の急増をもたらした最大の要因ではないだろうか。