高齢化が進む日本では、介護人材が不足しています。2022年度の介護職員の数は215万人ですが、厚生労働省は2026年度には240万人の介護職員が必要だと推計しています。『メータ―検針員テゲテゲ日記』の著者、川島徹さんは検針員生活の後、10年間老人ホームで夜勤者として働きました。その経験から、「老人ホームは人生最後の物語の場」と語ります。そこで今回は、川島さんの著書『家族は知らない真夜中の老人ホーム』から、一部引用、再編集してお届けします。
「気をつけてね」
西陵のグループホームを思い出した。
わたしが介護の夜勤の仕事を始めた最初の施設である。
「ここは、隠しカメラがあるからね。気をつけてね」
親しくなったスタッフの田端久美さんが教えてくれた。
入居者の杉山イネ子さんも気づいていた。
彼女はデイサービスに週2回しか参加しないので、施設長に嫌われていた。
その杉山さんはわたしが夜勤のときよく2階から下りてきた。
そして、片づけや朝食の下準備をしているわたしと話をしたが、その彼女がホールの物陰に座るのだった。
初めてのとき、「こちらに来て座ったら」と言ったら、ここには隠しカメラがあるの。施設長が見ているのよ」と声を潜めたのだった。