渡辺謙の声の使い方
意次との最後のやり取りでは、(脚本の)森下佳子さんの作劇術も感じました。最初に意次を脅しておいて後で認める。その前のシーンを読むと、意次は自分が(家基殺しを)疑われてしまうと焦っている。武元は さっさと「お前のことを信じているよ」って言えばいいのに脅したわけです。
普通だと、一貫して何か同じことを言うような感じで物語が進むことが多いのですが、今回の作品では、例えば、蔦重が揉めているところでも、むしろいろんなところに考えが飛んでいても、それが実はその先でちゃんと効果を生むようになっている。オンエアを見て、あるいは流れがつながったのを見て、「ああ、そうだったんだ」となることもあります。
15回でも、意次との緊張感のある状況からの「お茶で一服しよう」やり取りで、一挙に今までの話が解決したと思ったら片方(武元)が死ぬんですからダイナミックな流れだと感じました。
森下さんがいらっしゃったときに、「15回楽しみにしてますからね」って言われました。プレッシャーがありましたが、一生懸命やったつもりです。
武元について調べていくと、毒殺されている本もあれば、死んだとしか書いてないものもありました。私は毒をもられたと思っています。武元は、家基が死んだときにはかなりショックを受けたし、自分も陰謀に巻き込まれている感覚はあったと思います。何らかの形で自分が抹殺されるかもしれないと思ったでしょう。殺された自覚はあって亡くなったんだと解釈をして演じました。
意次役の謙さんとのシーンは楽しみにしていて、撮影前に2人でせりふについてどうするとか、ああだこうだ言っていましたね。謙さんは、声の使い方を微妙に変化させることができてうまい。ちょっと深い優しさが後ろにある声なんですよ。 それをうまくコントロールして、悪くするところが聞いていても面白い。
2人とも阪神ファンなので、 芝居の話以外は、ほとんど阪神タイガースの話をして過ごしていました。