いつものように受けた健康診断
川上さんからの申し送りを受けて、私は電子カルテに向かって必要な処方や指示の変更を入力します。電子カルテを使うことが当たり前になってから、医師の仕事は、パソコンと向き合うことに大きな割合を占められています。
入力を終えると、私は川上さんに声をかけました。
「今日は俺の健康診断があるんだ。いまから健診センターに行ってくるよ」
「いま、病棟は比較的落ち着いているから大丈夫です。なにかあったら電話します」
病院に勤務する医師の特権のひとつに、職場の施設で健康診断を受けられるということが挙げられます。勤務時間中に少しだけ仕事を抜けて受けることができ、あえて休みをとる必要がありません。ただ、最中も院内のPHSは持ち歩くことになるので気は抜けません。
私はスクラブ(半袖の医療用白衣)を着たまま病院を出て、歩いて数分の場所にある健診センターに入りました。ホテルのフロントのような受付に声をかけて、検査着に着替えます。荷物はロッカーにしまっておけますが、もちろんPHSは持ったままです。
検査は他の健診に来ている一般の方に混じって順番に回っていきます。顔なじみの看護師が忙しい私のことを配慮して、スムーズに検査が済むように手配してくれました。
血圧測定、視力・聴力検査、採血、心電図、レントゲンと進んでいき、残すはオプションでつけた検査のみとなりました。今回は胸部と腹部のCT検査、そして頸動脈の超音波検査を依頼していました。
CT検査はなにか悪い病気になっても早期発見できるようにと、2年おきに受けることにしていました。また、私は太り気味であるため、脳梗塞のリスクが高いのではないかと考えて、そのリスクを確認するため頸動脈の超音波検査を追加していたのです。
最後に呼ばれたのが超音波検査でした。
担当してくれるのは、お互いの子どもが同じ小学校に通っていたこともあって、仲よくしている臨床検査技師の岡田さんです。緊張することなく検査を受ける台に横になります。
岡田さんが私の首にゼリーを塗り、それから超音波のプローブ(検査器具)を当てていきます。私はボンヤリと薄暗い天井を見上げながら、このあとの予定をどうするか考えていました。