「3人分の座布団を用意」

だが、訴訟資料からは男性に変化の兆しもうかがえる。退院を機に地区のセンターが支援に乗り出し、定期的に保健師の訪問を受け入れていた。「3人分の座布団を用意。話し下手なので、とネタを用意済み」「訪問のリマインドを忘れていたのを謝ると、お互いさまと笑顔」。保健師が記した面会記録には柔和に接する男性の様子が記されている。

弁護士は裁判で「支援者との良好な関係を(転居によって)台無しにするのは強い懸念がある」と心配していた。

<『まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』より>

信頼関係に基づいて一歩ずつ妄想の解消を目指すのが適切な治療だと理解を求めたが、判決は確定した。103号室が競売に付されれば、男性は次に住む場所を探して、移ることになる。

※本稿は、『まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』(日経BP)の一部を再編集したものです。


まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』(著:日本経済新聞「揺れた天秤」取材班/日経BP)

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