「遅配は起こりうる」
京都地裁は24年2月の判決で「ピザの遅配は一般的に起こりうる現象」だと指摘した。その上で注文キャンセルの申し出に応じ、返金していることから事業者側の対応に違法性はなかったと判断した。52分という時間が我慢すべき範囲を指す「受忍限度」に収まるかどうかについては踏み込まなかった。
男性側に財産上の損害が生じていないことや、パーティーの食事をピザ以外に変更できた状況などから事業者側が慰謝料を支払う必要はないとして男性側の訴えを退けた。大阪高裁も同年7月、判断を維持。男性は不服として最高裁に上告したが、覆らなかった。
もっとも、地裁は事業者が時間指定の予約を受けていたことから「指定日時の前後15分以内に指定場所に配達する契約上の義務が発生していた」と言及。事業者側の「時間通りの配達は努力的に行うもの」という主張は退け「配達遅延について過失がなかったことの具体的な主張立証をしていないため債務不履行には当たる」とクギを刺した。
「みんなそろったのに肝心のピザが来なくてパーティーが始められない……なんてことにならないためにも」。事業者は注文ページで事前予約の強みをそう強調していた。残念ながら男性のもとにはこの年、肝心のピザが来なかった。クリスマスイブは、これからも毎年訪れる。ピザの到着を待つすべてのパーティーが楽しく始まることを信じたい。
※本稿は、『まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』(日経BP)の一部を再編集したものです。
『まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』(著:日本経済新聞「揺れた天秤」取材班/日経BP)
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