現場事務所の玄関に設置されていた防犯カメラを解析したところ、写っていたのはまさかのーー(写真提供:Photo AC)
自分にとって都合の悪いことは棚に上げ、うまくいかないことがあるたびに「私は悪くない」と主張して他人や環境のせいにする……。「このような病的ともいえるほどの自己正当化が蔓延している」と指摘するのは精神科医の片田珠美さんだ。片田さんは「自己正当化が強すぎると、やがて周囲から白い目で見られるようになり、取り巻く状況がますます悪化してしまう」と警告を発します。その典型例として建築会社に入って1カ月足らずで退職したAさんのケースが挙げられるそうで――。

入社後1カ月足らずで出社できなくなったAさんの場合

20代の男性Aさんは、大学を卒業して建設会社に入社したものの、1カ月足らずで出社できなくなった。

本人の訴えによれば、「自分が1人で現場事務所にいたとき、知らないおじさんがハンマーを持って入ってきた。そして、『工事の騒音がうるさいんじゃ』と怒鳴りながら、ハンマーを振り回して壁を叩いた。自分も叩かれそうになったので、逃げた。そのときの恐怖が強くて、不安でたまらず、夜眠れなくなった」ということだった。

たしかに、壁に少しへこんだところがあったので、会社側も本人の訴えを信じたようで、「診断書をもらってきなさい」と指示した。そこで、Aさんは私の外来を受診した。私自身も本人の訴えを信用して、休業加療を要するという趣旨の診断書を書いた。

ところが、その後、とんでもない事実が明らかになった。会社の上司がAさんを伴って来院し、本人同席のもとで経緯を説明した。だいたい次のような内容だった。