「猫好きのおばさん」もいた

他方、夫婦側も別の住民の陳述書で対抗した。それによると、この地区では周辺に住む「猫好きのおばさん」が生魚を細かく切った餌などをまき、野良猫が食い散らかすことが過去にあったという。「複数の防犯カメラで監視し続けることはやりすぎといわざるを得ない」とその住民。裁判は、夫婦と女性以外の近隣住人を巻き込んだ地域内の紛争に発展する。

23年5月、東京地裁は判決を言い渡した。地裁は被害時刻にバルコニーに妻の姿が映る事態が多数回あったことを認め「被害の原因が夫婦らにあると疑う理由がないとは言いがたい」と女性側の言い分に一定の理解を示した。

ただ、実際に異物をまく動作は映っておらず、身をかがめたまま被害を生じさせるのは「物理的に困難に見える」とも指摘。事実確認のため、最後の被害から1カ月程度の撮影は正当化できるが、その後の撮影は違法だと判断した。夫婦の自宅が撮影範囲に入るカメラの撤去を命じた上で、今後は同様の位置に設置することも禁じた。

いわゆる「ご近所トラブル」は近年、顕在化している。22年に全国の警察が取り扱った相談のうち、ゴミ出しや騒音などを含む「家庭・職場・近隣関係」は約29万2千件。18年(約25万2千件)から4万件ほども増えた。新型コロナウイルスによる在宅勤務の増加などが背景にあると見られる。

<『まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』より>