ラストシーンの白湯
――第16回では長屋を追われた源内は、大工の久五郎が紹介した家に住んでいます。自宅で久五郎が持ってきた甘いたばこの入ったキセルを吸った後、自分を非難する幻聴に振り回され、源内は狂気に満ちた行動を見せます。気を失い、気づいたら殺人事件の犯人とされていました。将軍の嫡男・家基殺害事件の過程で決裂した田沼が、投獄された源内を心配して会いに来て、和解しました。源内の牢屋でのラストシーンはおだやかな表情でした
史実では、源内が死ぬことは観ている人もわかっているわけです。何が皆さんに楽しんでもらえるか、今後のべらぼうに繋げられるかといったら「落差」だと考えました。
自由な生き方を貫いているはずの人が、疑心暗鬼に陥って、残ったものは立身出世できなかった自分の悔いで、最後は怯えてしまう。キセルの中に何が入っていたか知らないけれど、本草学をやっていたわけだから草木なんか知っているはずですよ。
幸せな最期じゃなかった気がしますが、僕は源内を褒めるという形で役と向き合いました。「あなたが残した功績は発明だけじゃない。ほかの人にはできない考え方や生き方をした。そういうものが今も受け継がれて、愛されていますよ」と。 特に最後は、源内を肯定し続ける気持ちで演じました。
特に印象に残っているのは白湯のシーンです。牢屋にいる源内が、パラパラ降る雪を見ながら、辞世の句を詠む。田沼が牢屋を訪れてくれたことで和解していて、心は救われた状態。そんなときに、湯気の立つ白湯が牢に差し入れられた。間違いなくあの瞬間白湯の湯気は心に染みた。源内の人生の最後って考えたときに救いの一つだった。『べらぼう』には、物事の裏表、光と影が通底してあるような気がしています。この白湯のシーンの後に、源内の獄死が蔦重たちに伝えられます。白湯に救われたと同時に白湯に何かが入っていたかもしれないというのが、森下さんのすごいところだと感じています。
クランクアップしたときに、多くの大河にかかわり、いろいろな現場を知っているメイクの方が「あなたの平賀源内はとても人間っぽかった」と言ってくれたことはすごく嬉しかったですね。