パン食い競走

のぶは参加資格がないことを無視する形でパン食い競走に出場し、1等になる。当然、のぶは失格となってしまうものの、このエピソードを使い、嵩との関係性の一端が表現された。

「失格なんて酷いね」(嵩)、「うちがアホやった」(のぶ)、「のぶちゃんは悪くない。男らしくないよね。みんな女の子に負けたのが悔しかったんだ」(嵩)

温厚な嵩が珍しく怒った。パン食い競走に出たかったのぶを参加に導いたのも嵩である。嵩がのぶに好意を抱いていることがあらためて示された。第13回のことだった。
パン食い競走をめぐるエピソードはまだ続いた。同じ第13回、繰り上げで1等になった千尋が、賞品のラジオをのぶに譲る。

「1等賞はのぶさんや。これはのぶさんが受け取ってください」(千尋)

朝田家にラジオがやってきた。これは作品にとって意義深かった。時代の説明を登場人物たちのセリフやナレーションに頼らずに済むようになった。ラジオを使って時代の色を伝えられる。『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)などもそうだったのはご記憶の通りである。

さっそく電源が入れられた朝田家のラジオからは1936年に開催されたドイツのベルリン五輪の国内予選が伝えられた。ドイツのポーランド侵攻によって第二次世界大戦が始まるのは3年後の1939年。この時代はまだ平和だった。それが観る側に自然と伝わった。