父の焼き芋ブームはまだ続いていた

今年2月、厳寒の時期を迎えた札幌にいるのに、父は気温が氷点下の日でも時々焼き芋を買いに、老人ホームの近くのスーパーに行っている。嗜好品については移り気なところのある父だが、焼き芋ブームはまだ続いていた。

父の居室のドアを開けるとおいしそうな匂いがするし、ごみ箱に焼き芋の皮が入っているから、私はすぐにわかる。

「パパ、焼き芋食べたんだね。買い物に行く時、雪が降っていなかった?」

父は、午前中出かけた時のことを思い出したらしい。

イメージ(写真提供:Photo AC)

「あ! そうだった。帽子を被るのを忘れて出かけたから、雪が当たって冷たかった。髪がないと頭皮に直接かかるからな」

「それは冷たかったね。雪が降ってなくても、この時期寒いから冬の間は必ず帽子を被って出かけたほうがいいよ」

「わかった。そうする」

私は父のクローゼットを開けて、コートのフードの中に父愛用のハンチングを入れた。こうしておけば、次に買い物に行く時、父は帽子を被るのを忘れないだろう。