焼き芋の次のブームはコーラ

雪解けが始まった3月下旬。老人ホームに入館する際に、受付で名前等を書く間、担当の人が父の様子を教えてくれる。受付の女性がニコニコして言った。

「玄関横の自動販売機で、コーラを買ってソファに座っておしゃべりをしていましたよ」

私は父がほかの入居者と、交流していることがうれしくて彼女に聞いた。

「お相手は男性ですか?」

「いいえ、女性ですよ」

コーラの缶を片手に女性と話をしている父。ホームの人間関係も拡がっている証のように感じた。

父がなぜコーラを飲んでいることまで受付の人が把握しているのかが謎だった。

「父は普段あまりコーラを飲まないのですが……」

「そうなんですか。自販機で買った後、飲み口のプルが開けられなくて、受付に頼みにいらっしゃるのでコーラだとわかるんですよ」

イメージ(写真提供:Photo AC)

「お世話になっています。ありがとうございます」

今日の父との会話はコーラのネタから始めようと考えながら居室に入った。

ベッドサイドのごみ箱に、コーラの缶が2つ入っている。

「あれ? 受付の人がロビーでコーラを飲んでいたと教えてくれたけど、部屋で飲んだの?」

「いや、持って歩いても中身がこぼれないくらい減ってから部屋に戻って、残りを飲んだ。たまに飲むと、コーラはうまいな」

父は糖尿病ではないし、血液検査の結果もすべて正常値という、96歳とは思えない頑健な体を持っている。現段階では糖分の過剰摂取を心配することもないから、私は当たり障りない返事をした。

「そうだね。たまに飲むと、シューッとしたのど越しが爽やかだね」