私は私、と割り切れない

技術はあるんだから、ユミちゃんみたいに接客がうまくなれば最強なんじゃ……? と考え積極的にお客さんに話しかけてみたり明るく振る舞ってみたりもしたが、内向的な性格で他人とのコミュニケーションが苦手な私にはそれが苦痛で仕方なかった。そのうち出勤前にお腹が痛くなるようになり、最強どころかリング下でうずくまるポンコツになってしまった。ユミちゃんのような接客は、私にはできないのだ。

あの子はあの子、私は私、と割り切れない。自分自身に集中して技術をもっと高めれば良いものを「あの子は下手なくせにずるい」と思ってしまう気持ちと、売上という評価のもとで確実に彼女より自分が劣っている現実を、どうしても受け入れられなかった。

ユミちゃんが接客だけでなく技術もある天才だったらきっと嫉妬なんかすることもなかったのに……と当時は思っていたが、こうしてエッセイストになった今、天才だと思っている人にも相変わらず嫉妬している自分を見て、心底うんざりしている。
私は根が明るい人と比べたってダメなんだってば。いい加減分かれ!

斉藤ナミさん
イベントで登壇する私。いつも緊張する

私には私の良さがあることは重々わかっている。今の世の中、そこらじゅうで「ありのままでいい。他人と比べるな」と唱えられている。だが、それができたら苦労はしない。

自分の文章に自信を持ち、いつかは他人と比べずに済む日が来るのを願ってやまないが、今日のところは「まあでも紫式部先輩も嫉妬しまくってたしな」と考えておこう。

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