私のほうがうまいはずなのに

文章というのは勉強のように点数もつかないしスポーツのように勝ち負けもわからない。明るくポジティブで元気がでる彼女の文章と、拗らせていて人間臭い私の文章、どちらもそれぞれ面白いと考えれば良いはずなのに。

私は今、知り合いのエッセイストの「新刊が出ます」のお知らせが世界で一番嫌いだ。

20代で美容師だった頃も嫉妬をしていた。毎日遅くまでたくさん練習して、誰より多く先輩スタイリスト達のアシストに入り、同期5人の中では一番優秀だった。アシスタントとして引っ張りだこすぎて、お昼休憩はいつも私が最後。夕方まで食事がとれないことも多かった。

しかし5人がスタイリストデビューすると、ドジで仕事も遅いユミちゃんという2つ年下の子が、一番売上が多かった。明るくて、お喋りが上手で、お客さんとすぐに仲良くなれるキャラだったからだ。

私のほうがカットもカラーもパーマもうまいはずなのに、ユミちゃんのほうがどんどん売上をあげていく。技術はないし、いっつも一番に帰るし、お店が忙しくてもヘルプに入らないで休憩ばかりしているくせに……ずるい!

指名が重なって忙しいユミちゃんのお客さんのカラーやパーマ、シャンプーを、暇な私が代わりに担当する時間が一番苦痛だった。なんで私がユミちゃんのお客さんを……! このカラーもパーマも彼女の売上になるかと思うと、悔しくて悔しくてたまらなかった。わざと失敗してやろうかとチラッと思ったけれど、そこは職人気質の私のプライドが許さなかった。

嫉妬していることがバレたらダサいので、自分ではユミちゃんの悪口は言わずにいた。でも同じように彼女を良く思っていないスタッフが
「あの子、トークで稼ぐなら美容師じゃなくてキャバクラにでも行ったらいいのにね。カット下手なんだし」
と漫画に出てくるお手本みたいな陰口を叩いているのを聞いて「いいぞ、もっとやれ。燃やせ燃やせ!」と心の中で小躍りしていた。一番最低だ。