無駄な動きを減らす
私は身内の在宅介護をした経験から、年齢に合わせた住環境について考えるようになりました。現在は高齢者の整理収納サポーターとして、地域包括支援センターなどでセミナーを開くほか、体が不自由で片づけが難しい依頼者のご自宅を定期的に整えるお手伝いも行っています。
そうした場で声を聞き、お手伝いするなかで気がついたのは、シニア世代の家の片づけは「ただモノを減らせばいい。表にモノが出ていない、スッキリした空間を目指せばいい」わけではないということでした。
なぜなら、周りからは散らかっているように見えても、実はモノの定位置が決まっていて、本人にはその状態が《使いやすい》というケースがあるからです。
たとえば1日の大半を過ごすリビングのテーブルの上に、リモコンや文房具、メガネ、薬、化粧道具などが雑然と置いてあるとします。その理由が、立ち上がったり歩いたりするのがつらく、あちこちへ取りに行くのが大変だから、だったらどうでしょうか。
見た目のキレイさを優先してほかの場所にしまったら、かえって生活が不便になってしまいますよね。
年を重ねれば、腕が上がらない、深くかがめない、膝や腰が痛くて歩くのが億劫などと、体の機能は変化してくるもの。ですから家庭内事故で多い転倒を防ぐためにも、日常の動作が無駄なく、スムーズにできるように、使い勝手のいい場所に必要なモノが整理・収納されていることが大事なのです。
実際に片づけるのは、「床、廊下や階段(動線)」「リビングや寝室(滞在時間の長い場所)」「台所」の3ヵ所だけで十分。あちこち手をつけると収拾がつかなくなるうえ、長時間の作業は心身の負担になりますから、よく使う場所を中心に整えていきます。
安心・安全な住まいにするために、まずは、いて転ぶ危険を避けるため、動線である廊下や階段の床から、モノをなくすことを始めましょう。