「たたき上げの力士」は人の心を打つ

一人前の力士になっていく過程を「ちゃんこの味が染みる」と言います。この二人の対戦では「俺はもう8年以上も大相撲の世界にいる」という、ちゃんこの味が染みてきた平戸海の意地も見逃すことはできません。

職人の世界などで、下積み時代から努力し、力や技を身につけた人のことを「たたき上げ」と呼びます。大相撲界でも、中学を卒業してすぐに入門し、地道に努力をして出世すると「たたき上げの力士」と言われます。称える意味での言葉です。高校や大学時代に活躍したあと大相撲の道に入る力士を否定する気持ちは毛頭ありません。

しかし、大相撲に限らず、今でも「師匠と弟子」という言い方をするこの世界での「たたき上げ」は、その努力を知る人の心を打ちます。その意味では、平戸海などは今の時代、稀有な存在として応援したくなってきます。

※本稿は、『大相撲中継アナしか語れない 土俵の魅力と秘話』(発行:東京ニュース通信社、発売:講談社)の一部を再編集したものです。

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大相撲中継アナしか語れない 土俵の魅力と秘話』(著:藤井康生/発行:東京ニュース通信社、発売:講談社)

大相撲アナとして、1988年から2022年まで本場所中継を担当した元NHKアナウンサー・藤井康生。

昭和・平成・令和にわたって角界を見守ってきた唯一のアナウンサーだからこそ語れる、大相撲の魅力とその秘話を余すことなく紹介。